育苗とは作物を最初から田んぼや畑に蒔かないで種から苗まで育てることです。水稲栽培ではプール育苗が有名ですね。野菜も育苗箱やポリポットなどで育ててから畑に移植するかたがプロでも趣味の方でも増えています。
ただ育苗をするにあたってどんな道具が使われているのか、どんな道具を使えば効率よくできるのかを今回はおすすめ育苗アイテムをご紹介しつつお話したいと思います。
年間数多くの展示会で農業資材メーカーの方とお話する機会の多い管理人が、そこで聞いたおすすめの資材や自身が働く資材屋での人気を踏まえてお話します!
- 水稲用の育苗箱の選び方・種類はこちら⇒水稲用の育苗箱の種類と選び方
- 野菜用の育苗箱の選び方・種類はこちら⇒野菜・園芸用育苗ポット
水稲用育苗箱での育苗の流れ
まず最初に水稲栽培での育苗の流れを確認しましょう。大まかに言うと
- 育苗箱と種子の洗浄・消毒
- 種籾に水分を含ませる(浸種)
- 温度管理しながら芽を出させる(催芽)
- 育苗箱に床土を入れる
- 種を蒔く
- 十分も水を染み渡らせる(潅水)
- 種籾が隠れるくらいまで土をかぶせる(覆土)
- 暗い状態にして芽を伸ばす(緑化)
- 温度管理をしながら外の状態にならす(硬化)
- プール育苗へ
簡単に説明します。
育苗箱・土の消毒と種の消毒
まずは育苗に使う育苗箱と土の洗浄・消毒と種の洗浄をします。
種から芽が出てきたばかりの状態は人間でいうと赤ちゃんみたいなものであら言うる病気や虫が天敵となり育苗にあたって大きな影響を受けます。しっかりと洗浄と消毒をしましょう。
また土も同じです。趣味などで市販の育苗用培土であれば消毒や肥料も含まれていますが、土を作る場合は土をふるいにかけpHを4.5~5.5に調整しながら苗箱1箱に5Lほど用意しましょう。
種ももちろん重要です。まずは状態の良い種籾を選別をする塩水選という作業をします。一定濃度の塩水に種籾をつけることで胚乳という種の成長に必要な栄養源が多い種は沈み、少ないものは浮くので浮いたものを取り除けます。選別後はしっかりと真水で洗いましょう。
種の消毒は主に
- お湯で消毒する温湯消毒
- 農薬で消毒する種子消毒
の2種類があります。お湯の場合は60度ほどのお湯に10分ほどつけてすぐに冷たい水で冷やします。袋の中の中まで十分熱が行き渡らなかったり温度が低すぎたりすることがありますのでご注意ください。
種籾の消毒から浸種・催芽に使われる網目の袋は種籾袋と言われ市販されています。様々なカラーも有り種類などによって分けることも可能です。
種籾に水分を含ませ催芽
次に種に水を含ませる浸種という作業を行います。この作業をすることで種の中のデンプンをブドウ糖にすることで発芽を促進し催芽しやすくなります。漬ける水は10度以上にし7~10日間浸けます。ただ温度が高すぎでも細菌が増える原因になるので15度くらいまでにしましょう。細かな日数は100÷水の温度で日数を割り出します。
例)100÷10度=10日
次に催芽です。こちらは催芽器などを使うこともあり、水温を25~30度にしてその中に種籾を入れ、種籾から芽が僅かに見える程度の鳩胸状態になったら催芽完了となります。大体芽が05~1mmほど見えたら鳩胸状態と言えます。
芽を均一に出すことが目的なので、この時籾を均一に広げてムラができないようにするのがコツとなります。また芽が伸びすぎたりするとその後の作業で傷がつきやすくなります。
催芽と催芽機について詳しく書いた記事はこちら→催芽ってなに?催芽とおすすめの催芽機
塩水選から催芽までの流れはこちらの記事へ⇒催芽とは?塩水選から催芽までの流れとおすすめの催芽機をご紹介!
育苗箱に播種し覆土する
まずは育苗箱に床土といわれる種を蒔く土を詰めていきます。趣味の範囲でしたら床土は市販の培土を利用するのが手っ取り早いです。自分で作る場合は肥料三要素といわれる窒素・リン酸・カリを1箱あたりそれぞれ1~1.5g程度、pH5を目安として作りましょう。
床土をする時は状況に応じて育苗箱敷紙を敷きましょう。その理由は土や栄養がもれないようにや水を含ませやすくするなど理由があります。
育苗箱用の敷紙については詳しく記事を書いていますので気になる方はお読みください→育苗箱用敷紙の必要性とおすすめ
播種つまり種まきは1箱あたり120~150gほどをムラなく均一に蒔きましょう。苗箱専用播種機などをつかうと便利です。そのあと潅水をして水を十分に床土に含ませます。もし育苗箱殺菌剤や殺虫剤を加える場合は播種時に一緒に撒くか床土に混合させておきましょう。
その後は土を種にかける覆土という作業をします。覆土は肥料成分を含まない土を使い、覆土を行った後に潅水もしないので注意しましょう。覆土も専用の覆土機がいくつかあります。
土の量は育苗箱によって目安が違います。
- 稚苗用育苗箱で床土は3.3L、覆土は1L
- 中苗用育苗箱は床土は3.8L、覆土1L
を目安にしましょう。
- 水稲栽培の育苗箱について詳しく知りたいという方はこちら→【稲の育苗】水稲用の育苗箱の種類と選び方
- 播種・覆土についての資材はこちらでくわしくご紹介しています→水稲用・家庭菜園用・プロの農家用おすすめの種まき機【播種機】
緑化と硬化
覆土まで終わった育苗箱を育苗器に入れて出芽させます。育苗器は温度を約30度にし2~3日ほど加温して芽の長さが1cmほどになるまでします。伸ばしすぎると病気に弱くなり、短すぎると生長に影響がでてきますのでタイミングを良く見計らいましょう。
次に緑化を行います。出芽が終わった育苗箱をビニールハウス内に並べます。並べた苗箱に2~3日シルバーポリやシート、寒冷紗などをかけて光を遮り弱い光を当てながら芽を伸ばしていきます。
緑化中はビニールハウス内の温度が20度前後になるように温度管理をします。もし夜間など温度が10度以下になる場合はビニールハウスの温度を上げるヒーターなどを使い調節しましょう。極端な高温や低温は葉っぱが白化減少を起こす場合もあります。
こちらの記事でビニールハウスの保温について詳しくお話しています→ビニールハウス内の保温・霜対策におすすめアイテム
緑化の際は基本的に潅水は必要ありません。もし根上りが目立つ場合は水分大目の覆土をしましょう。意外に床土には緑化中分の水分が含まれており余計に水を与え過湿になる可能性があります。
苗の高さが3cm位で第一葉の緑色の葉の先端が見えるようになったら次に硬化を行います。
まずは覆っていたシートを外しますがシートを外すのはなるべく昼間がおすすめです。シートを外すことで外の環境になれさせ光合成を十分に行わせます。換気とシートでの被膜で温度を管理し日中で20度前後、夜でも10~15度程度に7~10日間の硬化前期はします。その後は完全にシートを掛けず硬化させますが、あまりにも寒い場合はシートで覆いましょう。
そしてプール育苗へ移ります。→プール育苗とは?今さら聞けないプール育苗についてとその作業手順
家庭菜園でもできる野菜など果菜類の育苗
水稲栽培の育苗の次は野菜の栽培での育苗についてお話します。ただ野菜と言っても様々な野菜があって水稲栽培のように稲にフォーカスのようにはいきません。
たくさん種類がある野菜ですが、苗の育苗をするにあたって一番最初にしなくてはいけないことは種まきの時期を知ることです。これを知らないとうまく育苗ができません。まずは主な育苗に向いている野菜の種蒔き時期をまとめました。ただ年に何回か種まきができるものもあります。
野菜 | 種蒔き時期 | 植え替え時期 | 発芽適温(度) |
キャベツ | 10月初旬~11月下旬 | 11月中旬 | 15~30 |
白菜 | 8月下旬~9月初旬 | 9月初旬~10月初旬 | 15~30 |
トマト | 3月初旬~中旬 | 5月初旬~中旬 | 20~30 |
ネギ | 3月~4月 | 7月初旬 | 15~25 |
ブロッコリー | 2月下旬~3月中旬 | 3月中旬~4月中旬 | 15~25 |
オクラ | 5月中旬以降 | 5月中旬~6月下旬 | 20~30 |
玉ねぎ | 8月下旬~9月上旬 | 10月下旬~11月上旬 | 15~20 |
またニンジンや大根のような真っすぐ伸びる根野菜は育苗箱やポットなどを使うと根がすぐに最深部まで伸び傷ついてしまったりして生育が悪くなりますし、ほうれん草や小松菜などの種を蒔いてから収穫までが短期間の野菜もいちいち育苗するより畑に最初から蒔いたほうが早く収穫できます。
以上を頭に入れてから育苗の手順を見ていきましょう。
野菜の育苗手順
それでは野菜の苗を育苗する手順を見ていきましょう。
- 育苗用容器に培土を詰める
- 水が滴るくらい水やりをする
- 種を蒔く
- 軽く覆土する
- 新聞紙をかけて日陰へ
- 発芽したら新聞紙を外す
- 土の乾きに注意しつつ育苗
一つ一つ説明していきます。
育苗用容器に土を詰め潅水
育苗箱・ポリポット・セルトレイなど育苗用容器を用意します。
その選び方と使い方はこちらの記事へ→育苗箱・ポット・セルトレイで育苗する理由とは?どれを選べがいい?おすすめの選び方と使い方
実は育苗用容器につかう培土ですが、種まき用培土というものがあります。育苗に必要な成分をブレンドしたまさに種まき専用の培土で特にこだわりがなければこちらを使いましょう。それら種まき培土は裏に土の使い方が書いてあり、多くは一度容器に土をいれ水を加えてよく混ぜ合わせてから容器に土を詰めます。
育苗用容器に土を詰め終えたら、底から水が滴るくらい水を与えましょう。
たねまき培土とポット用培土の違いについて
土を買うのはもったいないと思っている人はたくさんいると思います。ただそう思っている人ほどあまり農業の知識がない方が多いです。そしてそんな方におすすめできるのがたねまき培土です。実は育苗は難しくどんなにいい環境で育てても土が悪いと芽すらでないことがあります。
またせっかく土を買っても安すぎるとあまりいい土でなく芽の生育が悪いという話もよく聞きます。初心者は何も考えずタキイ種苗さんという有名な種苗会社のたねまき培土を買っておきましょう。とりあえずこれで大丈夫です。
ちなみにポット用培土というものもありますがたねまき培土何が違うのかといいますと、たねまき培土はその名の通り育苗用容器に蒔いた種から発芽をさせることに特化しているpH調整などされています。育苗箱やセルトレイで発芽させた場合すぐに抵触することになるためこちらで十分です。
ポット用培土は育苗に特化した培土で育苗用培土とも言われています。発芽した後に苗を成長させるために使う土なので使う時期が変わってきます。
種を蒔いて土をかぶせる
こちらも水稲栽培と同じく播種機をまとめた記事を見ていただいて、その中で紹介している簡単に播種が可能な楽ちんアイテムを使うことで効率よく播種をすることが可能です。
ただ少ない場合は播種機を使う必要もありません。予め種を入れる穴を指で押して作っておき、そこに種を買った時に大抵裏に書いてある数を蒔きます。そして軽く土をかぶせます。
ネギなどの播種にはニッテンさんの播種セットがとても人気です。チェーンポットやペーパーポットを使った播種方法を使うセットで必要なものがすべて揃っていますが、使う種によって選び方が違うので播種機の選び方の記事を書きました。気になる方は是非ともお読みください。
新聞紙をかけて日陰へ
新聞紙などをかけて日陰で風通しのいい場所に置いておきます。ただ本格的にやる場合は育苗ベンチで底からも風通しを良くすることでしっかりと根が培土に絡み根鉢ができます。また温度管理ができる育苗器でしっかりと管理する方もいます。
発芽したら新聞紙を取り除きましょう。
育苗保温器「愛菜花」
誰でも簡単に育苗ができるのが昭和精機さんという園芸用品で有名なメーカーさんの作っている愛菜花です。こちらは種まきまで終わった育苗箱をこちらにセットしてダイヤルで温度調整をするだけ。すごい人気です。
ヒーターとサーモスタットもついているので温度管理が簡単で作物に合わせて適切な育苗温度を保つことができます。難しいことは何もなくこれにセットするだけで知識があまりなくても育苗ができます。家庭用園芸の場合育苗はこれに任せるだけで十分です。中に入れるサイズのセルトレイもついているセットもあります。
使い方を説明した動画もありますので見てみてください
上でもお話したように発芽や育苗には適正温度があります。ただ秋に巻く場合は秋・冬と寒い時期を温度管理をしつつ育苗を行わなくてはいけません。先程ご紹介した愛菜花の他にもいくつか発芽・育苗のために保温するアイテムがあります。
それが農電サーモ&マットとひなたぼっこです。
ひなたぼっこ
育苗で必要な温度管理を簡単にできる育苗器・ひなたぼっこです。小型ビニールドームと電気マットヒーターのセットになっています。ひなたぼっこには2種類あり比較してみました。
- ひなたぼっこ760
- ひなたぼっこ900
となり違いはサイズだけです。サイズと対応育苗トレイ枚数を比較してみましょう。
ひなたぼっこ種類 | サイズ | 育苗箱対応枚数 |
ひなたぼっこ760 HB-10 | 81x40.5x30cm | プラグトレイ 54x28 1枚 3号ポット約32鉢 育苗ポットミニ6枚 |
ひなたぼっこ900 HB-20 | 96x66x50cm | 3号ポット約70鉢 プラグトレイ54x28 3枚 育苗ポットミニ 18枚 |
900の方はぶどうの接ぎ木もできるとのことでぶどう農園さんも使っています。ただ一時期マットが暖かくならないというクレームが多かった為購入したらまずマットが温まるかを確認しましょう。
農電サーモ&マット
こちらは愛菜花やひなたぼっこよりも規模が大きいプロの農家さん用の育苗保温セットとなります。温度を管理する農電サーモと温める保温マットのセットで既設のビニールハウスやトンネルにセットして育苗を行います。
農電サーモは6種類
- ND-610
- ND-620
- ND-810
- ND-820
- ND-910
- ND-920
マットは3種類
- 1-306
- 1-417
- 2-417
に分かれています。
農電サーモのそれぞれの違いは簡単に説明すると
- ND-○10シリーズは単相100Vの家庭用電源
- ND-○20シリーズは単/三相200Vの業務用電源
- 600シリーズはダイヤルを回すだけの簡単設定
- 800シリーズはマットが2つ接続可能で適温表示ランプ付き
- 900シリーズはデジタル表示の見やすい画面
という違いになります。農電マットの違いは
マット | サイズ(m) | 電源規格 | 対応農電サーモ |
1-306 | 0.9x1.8 | 100V | ND-610 ND-810 ND-910 |
1-417 | 1.2x5 | 100V | ND-610 ND-810 ND-910 |
2-417 | 1.2x5 | 200V | ND-620 ND-820 ND-920 |
電源も節約できて温度管理も簡単にできる農電サーモはかなり昔から人気のシリーズで使っている方もかなり多い保温育苗セットになります。
育苗・定植
発芽したら朝に水やりをし夕方にはポットの表面が乾くくらいで行い、徒長させないようにしましょう。
作物によって時期は変わってきますが、ある程度大きくなったら大きめのポリポットなどに植え替えましょう(定植)。主な作物の目安は以下になります。
- ナス・トマト・ピーマンは1番花が咲いたら
- 玉ねぎは茎の太さが5~6mmで草の丈が20~30cm位になったら
- ズッキーニ・きゅうり・かぼちゃ・キャベツ・ブロッコリー・レタスは本葉が4~5枚になったら
- 枝豆は本葉が1.5枚になったら
- インゲンは本葉が出始めた時点
- オクラはかいわれ葉になった頃
時期になったら速やかに定植をしないと作物の生育に支障をきたします。定植をしたら温室や加温機などでしっかりと温度や水の管理をしましょう
まとめ
さて今回は水稲栽培と畑の作物での育苗の手順とすこしでも効率よく育苗できるためのおすすめアイテムをご紹介させていただきました。
それぞれ詳しく書いてある記事もいくつかありますので、リンクを張って置きましたのでより詳しく知りたいという方はリンクから専用の記事へいって読んでいただければと思います。
育苗は赤ちゃんを育てるのと同義です。温度管理と水の管理をしっかりすることが大切でそれをどれだけ効率良くできるかちゃんとできるかが肝となってきます。
使えるものはできるだけ使って効率よく育苗をしましょう。
- 水稲用の育苗箱の選び方・種類はこちら⇒水稲用の育苗箱の種類と選び方
- 野菜用の育苗箱の選び方・種類はこちら⇒野菜・園芸用育苗ポット