従来育苗といえば育苗箱に土や肥料を敷き詰め種を植えて育苗をしていきます。そういった土を使う育苗の方法もあれば水を使った育苗の方法もあり水耕栽培といいます。簡単に言えば土を使わない栽培方法です。
土を使わないで作物を育てるわけですから土の代わりになる育苗マットというものが必要になります。家庭などではスポンジのようなウレタン培地を使うことが多いです。
今回はそんな水耕栽培用の培地である育苗マットについてお話していきます。
年間数多くの農業資材の展示会に出席し多くのメーカーの営業さんとお話させて頂く中でそこから聞いたお話や自身が働く資材屋での売れ筋やクレームなどのお話を踏まえてお話します。これで育苗マットについて丸わかりです。
水耕栽培用育苗マットのメリット・デメリット
お米を作る水稲栽培や土を使わないで野菜を育てる水耕栽培などでは育苗マットと呼ばれる培地が使われます。
土を使わずに育苗マットを使うメリットとしては
育苗培地マットのメリット
- 省スペースで土で汚さず部屋でも育てやすい
- 土を使わないまたは少量しか使わないため育苗箱の持ち運びが軽量で楽
- ものによってはロックウールにリン酸・カリ・窒素が含まれていてすぐに播種ができる
- 水を吸いやすい培地のため潅水の回数も減る
- 虫が発生しにくい
- 種も蒔きやすく根も発達しやすい
とたくさんあります。
育苗マットは育苗箱にぴったし入る大きさから作物を1つ育てる位の小さな物などがあるため趣味など小規模でも使えます。種も蒔きやすくまた土を使う必要がないため部屋が土がこぼれて汚れる心配もなく土がないため虫も発生しにくいです。
また育苗箱に土を敷きつめるより2kgほど軽くもなり、たくさん育てる場合も作業が非常に楽になるというのが農家さんには一番嬉しいメリットらしいです。
デメリットは値段が土より張ってしまうことです。
育苗マットの種類
培地は大きく分けて
- ロックウール培地
- ウレタン培地
の2種類に分けることができますが、さらにその中でも水稲用と野菜用と分かれてはいます。それぞれ詳しく説明をしていきます。
ロックウール培地とは
ロックウールとは素材の名前で人工的に作られた鉱物を由来にした素材です。農業用の培地の他にも建築の断熱材にも使われている素材で幅広く使われています。
ロックウール培地は水稲栽培用と野菜の水耕栽培用でしっかりと分かれています。見分け方は商品名にもしっかり書いてありますが、水稲用は水耕栽培用とちがい薄く水耕栽培用のものは種を植える窪みがあるものもあります。
水稲用ロックウール培地の選び方と使い方
水稲用ロックウール培地は育苗で使う床土の代わりとなるものです。2022年に万作さんは廃盤になり市販用はエースマットに統一されました。
お米を育てている農家さんであれば聞いたことがある「万作さん」「エースマット」などが有名な水稲用ロックウール培地となります。どちらもケイ酸とカルシウムを主な主成分としてできており、もちろんのこと作物を育てるのに問題はなく稲はケイ酸好むため適正な主成分です。
万作さんとエースマットは日本ロックウール株式会社というメーカーが作っており「ロックウール」だったり「エースマット」「チビッコマット」という名前でも販売しています。日本ロックウール株式会社さんの万作さんとエースマットは違う名前で販売されていることがありますが同じものです。
こそっと聞いた話ではプロ用としてエースマットという名前をつけて分けているという話も聞いたことがあります。そして農協用には全く同じものが「コメパーマット」として販売されています。
どちらも肥料成分である窒素・リン酸・カリが培地に含まれておりますが、万作さんやエースマットは用途地域によって成分比率が分かれています。(乳苗用はチビッコマットという名前)まとめると
窒素 | リン酸 | カリウム | |
寒地用Kタイプ | 2.0g | 1.5g | 2.0g |
一般用Nタイプ | 1.5g | 1.0g | 1.0g |
暖地用Dタイプ | 0.8g | 0.8g | 0.8g |
乳苗用無肥料タイプ | 0g | 0g | 0g |
それぞれ環境に適したものを選びましょう。最近よく聞く密苗とも相性がいいらしく、密苗をすると苗箱が重くなりやすくなるのでもともと軽い育苗マットを使うことで少しでも軽くできるというメリットがあります。
使い方は少し土での栽培と違う部分があり
- 育苗箱に白い面を上にしてセット
- マット一枚に2Lの潅水
- ムラなく播種
- 1.2~1.4kgの土を覆土
- 適正な温度で管理し出芽後1cmほどで緑化へ
- 潅水は控えめに温度管理をしっかりと
- 硬化期は1~2日ごとに1回たっぷり潅水
- 稲の滑りをよくするためにしっかりと潅水しマットの厚み分深植えをする
といったものですが注意点を含めながら簡単に説明をしていきます。
ロックウール培地は使うまでは直射日光に当たらず湿度の低い場所で保管をしましょう。使われている肥料は吸湿性があります。
育苗箱にセットする際根が飛び出る場合もあるので敷き紙をひかれる方もいます。その後2Lほど潅水するのですが、敷き紙を使った場合やダイヤカットの育苗箱などは1.8Lほどで大丈夫です。少なすぎると出芽ムラや育成ムラがでやすくなり多すぎると肥料が流れ出てしまいます。
覆土の土は粗い土を選ばないと種が酸欠を起こすので気をつけましょう。覆土で1.4kgの土は多めですが種が沈まないぶん多めに土が必要で育苗箱の上から2mmくらい下まで土を均一に敷き詰めます。
育苗箱はプール育苗などもそうですが、地面の平らなところに置きましょう。角度があると温度ムラや育成ムラをおこします。緑化期は2~3日で10度以下と30度以上にはならないように気をつけましょう。硬化期は10~15日ほどで15~20度で温度を管理しましょう。寒冷地の場合は追肥も考えます。
野菜用ロックウール培地
こちらで有名なものは上でもお話した日本ロックウール株式会社さんの「やさいはなベッド」と「カルチャーマット」です。野菜や花などの栽培に使われ大規模栽培に合わせたサイズなどもあります。
この2つの違いは大きさや形となります。やさいはなベッドは5種類・カルチャーマットは2種類あり育苗箱によってピッタリと入るものを選びましょう。
やさいはなベッド
- 75x300x910:果菜類
- 100x300x910:果菜類
- 75x200x910:バラなど花き
- 100x200x910:バラなど花き
- L75x200x910:トマト・パプリカなどの大型栽培
カルチャーマット
カルチャーマットは32x23x32のサイズのみでノーマルタイプと防藻処理が行われているカルチャーマットクリーンがあります。ウレタンスポンジ培地では発芽率の低い小ねぎやほうれん草などでもよく使われます。
こちらの使い方も水稲用とほぼ一緒です。
- 育苗箱にセット(育苗箱は排水性のある穴開きのもの)
- ムラがないように潅水
- 播種板などで播種
- 適正温度管理で発芽を促し発芽をしたら液肥
- 育苗中は過湿にならないように上面が乾燥気味になるくらい
- 定植・収穫
わかりやすい動画があったので張っておきます。
ウレタンスポンジ培地とは
こちらは家庭用水耕栽培セットなどによくついてくるスポンジやスーパーなどで見かけるカイワレ大根などのしたにあるスポンジを想像していただければわかりやすいと思います。
ウレタン製のスポンジ状培地でウレタン培地ともいったりします。種を発芽させるために特化されており発芽に必要と言われる
- 水
- 温度
- 空気
をしっかり管理できます。スポンジは水の吸水性能がよいので水に関しては容易に想像ができると思います。ウレタンスポンジの気泡が温度と空気をしっかりと保ってくれて発芽がしやすくなるという仕組みのようです。
ウレタンスポンジ培地の種類の違いと選び方
そんなウレタンスポンジ培地は種によって
- 切込タイプ
- くり抜きタイプ
の2種類で分けることができ、通常の種などはスポンジ表面にカッターで切れ目を入れたような切込みタイプを使い、コーティングされて大きく丸くなった種を使う場合は表面をスプーンでくり抜いたような穴が開いているくり抜きタイプがあります。
たまに切込とくり抜き両方されたタイプもあります。
また色も最近重要視されてきており白と黒、そしてグレーのタイプがあります。一般的に使われているのは白のものとなりますが最近グレーや黒が出てきはじめました。グレーの話は情報がまだ集まっていませんが黒には黒の良さがあるようです。
黒は白に比べて
ウレタン培地黒の効果
- 藻が発生しにくくなった
- チョウバエの発生が少ない
- 商品の見栄えが良くなった
というメリットがあるとのことですが、野菜の種類によって効果がかなり変わってくるようです。そのためメーカーもデータとしてまとめることができないとのことでした。簡単に説明するとまずは藻についてですが白に比べて黒は菌や藻が発生しにくくカイワレ大根など商品にスポンジごと入れる場合なども発生しにくく黒なので発生しても白より目立たないという利点があります。
またチョウバエについては実際に白と黒両方のウレタンスポンジ培地を交互に同じ場所で育成し実験をしたところ黒だけチョウバエの卵を産み付けられる率がかなり少なくなったそうです。何度も言いますがいずれも野菜によって大きく効果が変わり正式なデータはないとのことでした。
ただ当時見向きもされなかった黒いウレタンスポンジ培地が今やどんどん需要が高まっていっているそうです。
ロックウールとウレタンスポンジの培地としての違い
水耕栽培で使われるロックウールとウレタンスポンジ培地。実際にどちらを使えばいいのかどう違うのか疑問に思われる方も多いと思います。以前ロックウールを作っている日本ロックウール株式会社の方に聞いたことがあります。
簡単に言うと違いは
- ロックウールは植物育成に特化で作られている
- ロックウール水分が全体に広がりやすい
- ウレタンスポンジマットは植物の成長とともに必ず植え替え必須
- 水稲栽培の場合そのまま田んぼに植えられる
となっております。
コメパーマットやエースマットなど水稲栽培用のロックウールは肥料も培地に吹き替えられており植物育成の特化して作られております。またロックウールの素材自体が水分が全体に広がりやすくなっておりウレタンスポンジに比べ植物の育成そのものに特化されています。
またウレタンスポンジマットは育苗の成長具合によって植え替えが必須ですが、ロックウールの場合は植物の成長にサイズさえ合えばそのまま育て続けられます。また植物特化の培土に似たような物なのでマットではなくロックウール素材を使った培土・ベストミックスというものもありヤシガラピートのようなものとロックウールが混合されたものとなります。
まとめ
今回は土に変わって育苗できる育苗培地マットであるロックウール培地とウレタンスポンジ培地についてお話しました。
ロックウール培地は人造鉱物素材を使ったもので水稲用は特に有名な万作さんなどがあります。素材であるケイ酸は稲の生長とも相性がよく、農家としても土を使うより重量が軽くなって作業がしやすくなるというメリットなどがありました。
ウレタンスポンジ培地も省スペース化でき部屋などでも栽培できる培地です。種によって切込タイプを選ぶ必要があり、最近はカラーによっても効果が変わってくるという実験結果も出ていますが、野菜によって異なるためデータ化はまだされていません。
土を使う時代も変わりつつあり大規模な農業施設などは土ではなく培地で作物を作っているためそのうち培地を使った農業が主流になるかもしれません。