特に最近農薬などを極力使わない有機栽培や無農薬栽培などが注目されています。ただ農作物を育てるにあたって害虫は切っても切れない存在でもあります。その中で注目されているのが天敵製剤という害虫の天敵を使うという方法です。
今回はそんな生物農薬とも呼ばれる天敵製剤について、使い方や天敵の農薬の影響などを詳しくお話していきます。
定期的に多くの農業資材メーカーの方とお話する機会のを多い管理人が、メーカーの方から聞いたお話や、自身が働く資材屋での経験を元に天敵製剤についてお話ししていきます。これで天敵製剤についてバッチリです。
天敵製剤とは
天敵製剤は上でもお話したように、害虫の天敵の虫を農園に放って害虫を食べてもらうことによって防除(害虫や病害の予防・駆除)する方法です。テントウムシがアブラムシを食べてくれるのは有名ですが、そのようなことを人為的にやって作物につく害虫を食べてもらいます。
化学合成農薬だけを使うのに比べ、労力や人への害などを減らすことができ、更には化学肥料が聞きにくい害虫にも効果が期待できます。
とはいえ意外なことに天敵製剤は農薬取締法できちんと定義された農薬となります。つまりはちゃんと効果や安全性が保証されているものとなり、安心して使うことができるということです。
天敵製剤を使うことのメリット
次に化学合成農薬と天敵製剤を比べてのメリットとデメリットをご紹介していきます。まずはメリットを簡単に上げると
- 化学肥料にくらべて安全
- 害虫が抵抗性を持ちにくい
- 散布が簡単
- 長く効果が持続する
となります。詳しく説明していきます。
全く農薬を使わないのは難しいですが、天敵製剤を使うことで使う回数を減らすことができます。そのため作物への農薬の影響や残留、汚染などのリスクが減ります。また農薬を使い続けることで害虫自身が農薬に対して抵抗力を持ってきます。ゴキブリにゴキジェットが聞きにくくなるようなものです。ですが天敵に食べられなくなるということはないので、耐薬性を持った害虫がでてきても関係なく効果を発揮します。
散布もかなり楽になります。生きている虫が餌を探して動き回り害虫を食べてもらうため、植物に振りかけるだけでピンポイントで効果を発揮します。薬液の計算やまんべんなく振りかけるようにノズルの調節などがいりません。そして繁殖もするため長期間効果が持続するため農薬をまく回数も減ります。
とはいえデメリットもありますので、次のパートでお話していきます。
天敵製剤を使うことのデメリット
今度はデメリット。上げていくと、
- 害虫を詳しく特定する必要がある
- 効果も範囲もピンポイント
- 即効性はない
- 化学薬品の相性に注意
などがあります。説明していきます。
上でもお話したように、害虫に対してピンポイントで効果を発揮するため、その害虫を食べてくれる虫を撒く必要があります。つまりは害虫がなんなのか詳細に知る必要が出てきます。それがハダニなのかコナジラミなのかを正確に知らなくてはなりません。そしてそれにしか効かないので、他の害には効果はなく、逃げないように範囲作りをする必要も出てきます。
また天敵が害虫を食べることで効果が出るため、どうしても効きが遅くなり、さらには害虫が増えすぎてから導入しても効きは薄くなってしまいます。追加で天敵を投入は容易ですが、害虫が出始めでまだ少ない頃に導入をするほうが効果的で、害虫の生態をよく知っておく必要もあります。
そして何よりも天敵製剤は生き物です。インターネットでも買えますが、受取に失敗すると中の生き物が死んでしまう、または化学農薬をつかう場合は天敵も駆除してしまう可能性もあり、扱いが難しいとも言えます。詳しくは下にて説明いたします。
次ではそんな天敵製剤の使い方と選び方について解説します。
天敵製剤の使い方
使い方は基本的にはとても簡単で、天敵製剤を扱っている有名メーカーの一つであるアグリセクトが簡単に使い方を説明してくれています。
- 段ボールから天敵製剤を取り出して常温に戻す
- ボトルを回転しながら中身を混ぜる
- ハウス内に撒く
また石原バイオサイエンスさんも使い方の動画を出しています。
天敵製剤の選び方
デメリットの項目でもお話しましたが、天敵製剤はピンポイントでの効果になるため、どの害虫から作物を守る必要があるか選ばなくてはなりません。そうなると
- 作物
- 害虫
を特定してから選ぶのが基本となります。
まずは作物ですが、大きく分けると
- 野菜類
- 果樹類
- イモ類
- 豆類
- 茶
- いちご
などにわけることができます。そしてほとんどが
- 施設栽培
- 露地栽培
にさらに分けることができます。いちごと茶は特殊なのか別に扱われていることもあります。次に害虫ですが、大きく分けると
- アザミウマ類
- アブラムシ類
- ハダニ類
- コナジラミ類
- オンシツコナジラミ
に分けられます。この2つを特定して天敵製剤を選んでいきます。例えば
作物 | 害虫 | 天敵製剤 |
いちご | ハダニ | ミヤコトップ・ミヤコスター・システムミヤコくん |
きゅうり(野菜施設栽培) | アザミウマ・コナジラミ | バコトップ・スワルスキー・アカメ |
家庭菜園野菜(施設栽培) | アブラムシ | テントップ・アフィパール・コレトップ |
などが挙げられますが、かなり細かく見たい方はこちらの表がおすすめで探しやすいです。
天敵製剤はどこで購入できるか
有名な天敵製剤を作っているメーカーさんだと
が有名ですが、購入先は種苗屋さんや農協での購入がメインとなってきます。アグリセクトさんに限ってはインターネットでも容易に手に入りますので、近くにそれら購入できる場所がない場合はインターネットにて購入する必要があるでしょう。インターネット購入の際の詐欺サイトの被害に合わないためのコツはこちらの記事で書いてありますので、あまりインターネットショッピングをしない人は御覧ください。
天敵製剤を使うにあたって気をつけるべきこと
天敵製剤を使うにあたって、間違った使い方をすると効果はほとんどありません。デメリットの項目でも少し触りましたが、簡単に気をつけるべきことをまとめると
- ピンポイントで害虫を選定する
- 化学農薬をつかうと天敵を駆除してしまう可能性がある
- 天敵製剤も生き物なため活動できる環境を整える必要がある
- 害虫の発生しはじめに使う必要がある
などが挙げられます。害虫の特定と選び方と害虫の発生時に使うについては上に書きましたので割愛します。それ以外についてお話していきます。
化学農薬からの影響
天敵製剤はもちろん生き物なため農薬にかなり影響します。使い方を間違えると害虫を駆除せず、天敵を駆除してしまうなんてこともあります。とはいえ全く農薬を使わないのも難しい場面もあります。そういったときは天敵製剤と併用できる農薬というものもありますので、そちらを選んで使うことになります。詳しくは購入した際に製品にも書いてあると思いますが、例えばアグリセクト製品といえば
天敵製剤 | 対象害虫 | 併用可能な農薬例 |
ミッチトップ(ミヤコカブリダニ・チリカブリダニ) | ハダニ | カネマイトフロアブル・ニッソラン水和剤・マイトコーネフロアブル |
バコトップ(タバコカスミカメ) | コナジラミ・アザミウマ(トマト可) | ウララDF・プレオフロアブル・ベネビアOD |
スワマイト(スワルスキーカブリダニ) | コナジラミ・アザミウマ(トマト不可) | ファインセーブフロアブル・カスケード乳剤・べリマークSC |
等が挙げられます。更に詳しく知りたい方はこちらのサイトをみると探せるかもしれません。とにかく天敵製剤を購入した際は併用できる農薬とできないものをしっかりと確認する必要があります。
天敵が活動できる環境を整える
何度も言いますが、天敵製剤は生き物で主に虫となります。虫は変温動物のため活動できる温度が決まっており、その温度を守らなくては天敵が害虫を駆除してくれません。つまり温度管理が大切になってきます。
例を上げると
天敵 | 活動温度 |
チリカブリダニ | 20~30℃ |
ミヤコカブリダニ | 15~30℃ |
ナミテントウ | 20~30℃ |
イサエアヒメコバチ | 20~25℃ |
スワルスキーカブリダニ | 20~30℃ |
タバコカスミカメ | 25~30℃ |
オンシツツヤコバチ | 20~28℃ |
ククメリスカブリダニ | 17~25℃ |
サバクツヤコバチ | 20~30℃ |
タイリクヒメハナカメムシ | 25~30℃ |
コレマンアブラバチ | 20~25℃ |
となります。
まとめ
今回は天敵製剤についてお話しました。余談になりますが、実は天敵は土着天敵という地元に住んでいる天然の天敵を使う場合もあります。ただ、土着天敵の場合は生態系の影響も考え採取地と同一の都道府県でしか使うことができません。
有機栽培や農薬をあまり使わない栽培には必要不可欠といえる天敵製剤。うまく使うためには気をつけなければいけない点が幾つかありました。
- ピンポイントで害虫を選定する
- 化学農薬をつかうと天敵を駆除してしまう可能性がある
- 天敵製剤も生き物なため活動できる環境を整える必要がある
- 害虫の発生しはじめに使う必要がある
などです。天敵製剤が農薬指定を受けているとはいえ、生き物なため天敵のための環境を整える必要があることを覚えておきましょう。