多くの稲の水耕栽培を行う農家さんで実際に行われているプール育苗。実際にプール育苗という言葉はよく聞きますが、実際にどんな育苗方法がプール育苗なのかわからない人もいるかと思います。
稲の育て方は大きく分けると直藩栽培と移植栽培に分けることができ、直藩栽培とは田んぼにそのまま稲の種を巻いて育てる方法で、移植栽培は別の場所で育ててから田んぼに植えるという形になり、プール育苗はその一つとなります。
今回はそんなプール育苗の手順をわかりやすくご説明していきます。
多くの農業資材を扱う資材屋で働く管理人が農業資材メーカーさんや実際の農家さんから聞いた話をもとにまとめてみました。これでプール育苗の基本がわかります。
プール育苗で使う道具などのお話はこちら→プール育苗に必要なアイテムのおすすめと比較
プール育苗とは
プール育苗とは、簡単に言うとビニールハウス内にビニールまたはポリフィルムを用いて簡易水槽(プール)を作り、常に水が張っている状態で苗を育てる方法です。
最近はハウスを使わずに野外にプールを作る人もいますが、基本的にはハウス内にプールを作って育苗をおこないます。そういった方法は露地プール育苗といいます。
プールを作り水を張って使って苗を育てるので、散水ノズル等で水やりをして回る必要がありません。そのため、育苗管理の大幅な省力化ができます。
でもどうして今はプール育苗が主流なのでしょうか。ここでプール育苗のメリットとデメリットをすこしまとめてみました。
プール育苗のデメリット
ビニールハウスや露地に水を張るということはどういゆうことかというと、水が溢れないようにプールを作らなくてはいけないということです。つまり地面が平らになって斜めになってはいけないということ。
こちらがプール育苗にとって一番肝となると言われています。つまり平地にしなくてはいつまで立ってもプールをつくることができません。これがいちばん大変な作業と言う方もいらっしゃいます。
またプールに水を入れて栽培するのですが、どこかに穴があって水が漏れてしまうと気づかない間に稲が全滅しているなんてこともあります。しっかりとプールの枠、遮水シートのチェックをしなくてはなりません。
ただ農家さんによっては平地なんか適当にやってそこまで気にしていないという方もいらっしゃいました。ただプール育苗は水の管理がいちばん大切なので、水の平行さや漏れには気を使い入念にチェックしましょう。
また水が常にあるため稲の徒長、つまり必要以上に伸びやすくなります。徒長した苗は病弱になったり細くなったりと成長にいいことはありません。そして水に肥料が流れやすくもなり、肥料が稲の成長に十分生かされないこともあります。
- とにかく平らな地に作らなければならないので、置き床を均平化がマスト
- 一箇所でも穴があったりすると水漏れの危険があるため稲の全滅もあり得る
- 苗が徒長しやすい
- 肥料が水に流れていきやすい
プール育苗のメリット
デメリットで書いた一つの穴で水が漏れて全滅ということは、穴がなければ水やりが一括管理できると行くことでもあります。その水やり作業が簡略化されて管理が楽になり兼業農家さんは特に大助かりという方は多くいらっしゃいます。4~7日に1回程度で済みます。そして一括管理するので水やりにムラも自然となくなりどの稲も乾燥しにくく苗の成長が均一になりやすくなります。
またビニールハウス内で育てるために温度管理もしやすくなります。ビニールハウスのサイドのビニールを閉めたり開けたりして管理できます。一般的に4度を境に以上あるときは夜でも開けっ放しでもいいとされています。
また土の量を大体1/2に減らすことができ床土量を抑えることができるのも魅力の一つです。そして水で一括管理するので肥料も水に流し込んでそれぞれの稲にやる必要もないので作業が効率化されます。
- 水やり作業が簡略化され楽になる
- 水やりにムラができにくく苗が均一になる
- ビニールハウス内で水を張ることで温度の上下が激しくなく温度管理対策になる
- 流し込みでできるので追肥が楽
プール育苗の方法
それではそんな便利なプール育苗の基本的な作業の流れをお話します。大まかにフローチャートをつくると
- 育苗場所を作る
- 平地する
- プール枠をつくる
- 枠に遮水シートを張る
- 入水でプールにする
- 育苗
という流れになります。それぞれ細かく見ていきましょう。
1.育苗場所を作る
育苗用ビニールハウス、簡易ビニールハウス、温室などを設置する作業。
設置場所は、育苗箱を置く場所の地面を均平に整地する必要があるため、簡単に均平作業ができそうな場所を見つける。
2.均平作業
石や土塊を取り除き、できるだけ均平に整地する。くぼんでいる部分には土を入れて、水深差は3cm(できれば1cm)以下にするように心がける。一部では籾殻などでへこみを埋めてもいいと言っているが、生のもみ殻を使う場合は、同じ園にいもち病やばか苗病の発生がなかったものを使用すること。
ここがうまくできないと、プール内に苗箱の高さ以上の高低差があると苗箱が乾いたり水没したりして生育ムラになるので気を使い行いましょう。
ただ、地面の勾配が大きく、置き床をどうしても均平にできない場所ではプールを適当なところで区切って、段々畑のように小さなプールを作る方法をやっている方もいらっしゃいます。
できれば簡易水準器などを用いて基準線を引き、水糸を張ってその水糸に沿って置き床を均平化する。
3.簡易水槽(プール)の設置
置き床が均等になったら次は枠を作ります。
板を用意して四角くつなぎ合わせて枠を作って行きます。
まずは水深を5-7cmくらいにできるよう高さ10cm程度になるように枠をつくります。その際水圧や衝撃で枠が倒れないように杭で固定していきますが、ポイントとしては水の循環を良くするために、必ず苗箱を並べたとき枠との間を5cm位あけます。また、排水を容易にするため、水尻を設けるのも忘れないようにしましょう。
枠は市販のプラスチックの物を使うのが軽くて一番ラクですが、木板を四角くつなぎ合わせてビニールハウスの長さにあわせてフレキシブルに変えられる枠を作ってつかっている方や、なんと角材やヌキ板、C型軽量鉄骨(Cチャン)、太い塩ビパイプ等などで作っている方もいます。
通常の平置き育苗から切り替えた人は、ハウス内に並べられる苗箱数が少なくなることが多いので注意する。でも通路部分を含めハウス全体を大きな1つのプールにするればできるだけ並べられるということで実際にしている方もいらっしゃる。
4.プール用ビニールを敷く
枠を設置したら、遮水シートとしてビニールシートをかぶせます。
ビニールシートに穴が開いていると水が漏れていくので使用する前に、穴が開いてないかしっかり確認しましょう。もし穴が開いている場合は、補修テープ等で塞いで水漏れが起こらないようにします。
シートはポリフィルムやビニールで厚さは0.1㎜以上のものを使用するのが基本となります。
市販のプール育苗用のPOブラックフィルム(厚さ0.15mm)などを使えば、耐久性があり簡単に敷くことができるのでおすすめです。
枠の外側までシートを張るので、幅に並べた苗箱の幅より50~80センチメートル程度余裕のあるシートを予め用意しましょう。プール育苗用の枠とシートのセットを購入すれば簡単にできるので、検討してみてもいいかもしれません。
5.育苗箱の入水
育苗箱はプール育苗用のものを選びましょう。穴が大きいものと使う場合は肥料や土が流れ出てしまうので必ず敷紙を敷きましょう。土は1cm程度の床土に播種後8mmくらい土を覆います。育苗は10~12cmくらいの稚苗~中苗になるまで育てるのが目標です。
土を減らしているので追肥は播種後10日くらいでしましょう。育苗箱を運ぶときに斜めにしたり、置くときにビニールに穴を開けないように気をつけましょう。育苗箱を斜めにすると加湿障害などが起こりやすくなります。そのようにし緑化まで終了した苗を入水します。土がやや乾き始めたときがベストタイミングです。
最初水をプールに貼る時期は慣行育苗の1回目の潅水時期と同じ時期します。なぜなら早すぎる入水は生育不良の原因となるためです。その際、入水は特に注意し水位は苗箱の培土表面より下に必ずするようにします。苗を水没させてしまうと生育不良になってしまうので、1葉目が開き、2葉目が出始めるまでは培土表面より下の水位にするようにしましょう。
6.苗の育成
水を張った後は寒くなかったらビニールハウスは全開にする。水が少なくなったら足す。というのを基本に管理する。ただ徒長しやすいので注意。また肥料も良く効くので、高温期のプール育苗だといもち病にもなりやすくなります。
水の漏れや苗の水没には注意しましょう。ビニールハウスは夜でも4度以上ある場合はサイドのビニールを上げておきましょう。朝でも太陽が出ていると40度くらいまでビニールハウス内が上がってしまうことがあるため気をつけましょう。4度以下になりそうな場合は水を多めに入れてビニールハウスのサイドのビニールを閉めるようにして急激な温度低下に対処しましょう。
追肥はプールの水を抜き、次の日に液肥の500倍溶液を(10-10-10)流し込み、水も再び床土が隠れるくらいまで入れます。
田んぼに植え替える2日前に水を落とし育苗箱を軽くして田植えをしやすくすると効率が良くなります。ただプール育苗で作った苗は乾燥に弱くなるので田植えまで乾燥には極力気をつけましょう。
プール育苗に必要な道具のご紹介はこちらの記事へ→プール育苗に必要なアイテムのおすすめと比較
番外編・露地プール育苗
また、冒頭ですこし説明した露地プール育苗というビニールハウスなどを使わないプール育苗もあるようです。ただ、ある程度条件があるようで日当たり・排水性がよく、民家から離れていて落ち葉やゴミなど入り込まない圃場が必要なようです。また鳥害やイノシシやシカなどの獣害などの対策を取りやすいのも重要なようです。
その条件の場所で、水を張った田んぼのようにフラットに整地をしプール育苗を行っていくようです。
まとめ
さて、最近良く農家さんが行うプール育苗についてまとめてみました。今さら聞けないプール育苗についてですがすでに行っている方もこれから行う方も参考になれば幸いです。
簡単にプール育苗についてまとめると
- 水の管理が楽になり効率化する
- 水の漏れや水面の一定化に要注意
- 土や肥料が水に流れやすい
- 温度管理も追肥も簡単に行える
- とりあえず水の管理を気をつける
といったところです。
基本的にはどこもプール育苗で稲作を行っているイメージなほど主流な稲作方法になります。次回は実際に展示会や農業資材販売の方から聞いた売れ筋やプール育苗資材をご紹介していきます。