板金金切鋏をはじめ様々な工具や金物を選ぶ中で、その工具の中で用途によってたくさんの種類があると思います。そんなたくさんの種類から工具や金具を選ぶにあたって
あれ、同じものがいくつかある。よく見ると素材が違う
なんてことありませんか。管理人は資材屋なので最初の頃は素材の違いで種類が何倍にもなるので大変で違いも全くわかりませんでした。鉄・鋼・合金・青紙・白紙、etc。わかる人にはわかりますが初心者にはわけがわかりません。
今回はそんな鉄や鋼の種類や成分、特徴などを完全に管理人用にできるだけ簡潔にまとめてみました。鋏や包丁・鏝・雪止め金具など思いつくだけで同じ形なのに素材が違うだけで分けられているものはたくさんあります。ぜひ金物の鋼の種類で迷った際は参考にしてください。
日々日頃から多くの工具メーカーさんの営業さんや職人さんとお話する機会の多い管理人が完全に自分のために鉄の種類や鋼の成分の違いについて工具や金具に使われる素材を中心にまとめます。
まずは覚えよう!鉄・合金・鋼とは?なにが違うのか
正直あまり工具など鉄に関わらない人は鉄・合金・鋼といわれても何が違うのかわからないと思います。簡潔に説明すると
鉄と合金と鋼の違い
- 鉄:元素記号のFeで金属元素の一種
- 合金:金属元素とその他のもの(金属や非金属)を混ぜ合わせた金属素材
- 鋼:鉄に炭素を少量加えた合金
と言った形になります。少しだけ詳しく説明していきます。
鉄というは中学や高校でならう元素記号のFeそのもので、実際に純粋な鉄というものをほとんど見ることはありません。実際に金具や工具に使われているものはすべて鋼といってもいいと思います。ちなみに英語のアイアンは鉄ですがスチールは鋼となります。
目にする金属であるものはアルミ・プラチナ(白金)以外ほぼ合金かもしれません。ホワイトゴールド、ステンレス、青銅、はんだなどが合金になります。
つまり金具で使われることの多いアルミニウム以外のあまり聞き馴染みのない素材の工具・金具は鋼でできています。
金物で聞く鋳造・鍛造とは
ここで鋳造と鍛造という言葉も金物や工具で聞くことがあると思います。これも鋼の一種だとおもっている初心者のかたもいるかも知れません。簡単に言うと鋳造と鍛造とは
鋼の加工方法
です。そしてそれぞれを簡単に説明すると
- 鍛造:金属を叩いて造っていく加工法
- 鋳造:金属を溶かして型に入れて造る加工法
となります。
違いをカンタに説明すると鍛造は強度が出ますがコストが高くなり、鋳造は複雑な形でも作りやすいですが鍛造に比べて重量が重くなりやすいという特徴があります。
それでは本題の鋼の種類と特徴についてお話していきます。
工具や金具で使われる金属素材
工具や金具でよく使われている金属素材は主に
- 炭素系鋼
- ステンレス鋼材
- 粉末ハイス系鋼
- アルミ
に大きくはわけられると思います。その中でほとんどは合金で金属はアルミですが、アルミにもアルミを含んだアルミ合金というものもあります。鋼は便宜上いくつかの種類に分けました。
今回は上の3つを特にピックアップして説明していきたいと思います。
炭素系鋼素材・安来鋼の種類と特徴
炭素系鋼素材とはその名の通り炭素が多く含まれる酸化鋼を使った鋼です。炭素系の鋼は他の鋼材に比べて切れ味が鋭いという特徴があります。そんな炭素系鋼だと
- 安来鋼
- 玉鋼
などがあります。
玉鋼は日本で日本刀や大砲の玉をつくるのに使われていた鋼です。「たたら」という炉で砂鉄と木炭を使い作られます。
そして特に有名なのが安来鋼です。安来鋼は工具を扱っている方はよく聞く鋼材で簡単に言うと日立金属株式会社で作られている鋼のことを指します。
安来鋼も大きく分けると
- 青紙
- 白紙
- 黄紙
- SLD鋼(ダイス鋼)
になると思いますが、いまいち初心者だとわからないけど聞いたことがあるのがここら辺だと思います。それでは安来鋼について少し詳しく説明していきまが、ちなみに青紙・白紙・黄紙を高級順に並べると
青紙>白紙>黄紙
となります。それでは説明していきます。
青紙と白紙、黄紙の違いとは
これらは上でご説明させていただいた通り日立金属株式会社で作られている安来鋼の種類ですが、それぞれ成分や特徴が異なってきます。これらは主に刃物に使われるため刃物を主体に説明していきます。まずは細かいことは省いて簡単に特徴を説明すると
- 黄紙:比較的安価で研ぎやすくガンガン使う用
- 白紙:黄紙より不純物を少なくし研ぎやすさと切れ味のバランスが取れている
- 青紙:3つの中で一番高級で白紙にクロムとタングステンが含まれるため硬く切れ味が最高
となります。詳しく説明していくと
黄紙は切れ味を左右する炭素の含有率は白紙や青紙とそんなに変わりがないのですが、金属が脆くなる原因のリンや硫黄の含有率が高めのため欠けやすいというデメリットがあります。ただちゃんと研ぐと中の方のいい金属がでてきて結果的によい刃が付きます。ガンガン使ってガンガン研ぐ現場に向いています。
白紙は高級鋼にあたります。鋼は硬いものほど研ぐのが難しいですが、白紙は切れ味と研ぎやすさのバランスが取れた鋼です。白紙の中でも
- 1号
- 2号
- 3号
とわけられていますが、なかでも白紙1号は特に切れ味と研ぎやすさのバランスが取れており刃物では理想の鋼、2号は最高にバランスが取れた刃物鋼と言われています。
青紙とは白紙にクロムとタングステンを加えることで耐摩耗性をアップさせた高級鋼です。この3つの中で一番硬く切れ味がとてもいいのですが、硬いため少し研ぎにくいというデメリットもあります。ただ硬いため研ぐ必要もそこまで多くはないのでプロの職人に好まれる鋼材になります。
1号・2号・3号そしてスーパーとは
青紙にも白紙にも番号がありますが、これらの違いは炭素の含有量となります。
炭素は多いほど硬く、刃が欠けやすくなり3号<2号<1号の順番で硬い鋼材です。つまりは切れ味にも影響し1号が一番硬いので切れ味が欠けやすく高く研ぎにくいという扱う難易度の高い鋼材となります。
青紙にある青紙スーパーは更に硬く研ぎづらい鋼材でまさに職人レベルでしか扱えない包丁などに使われます。
これらを簡単に表にまとめると
鋼材 | 切れ味 | 研ぎやすさ |
白紙1号 | ★★★★ | ★ |
白紙2号 | ★★ | ★★★ |
白紙3号 | ★ | ★★★★ |
青紙1号 | ★★★ | ★ |
青紙2号 | ★★ | ★★ |
青紙スーパー | ★★★★★ | ★ |
このようになります。
ダイス鋼ともいわれるSLD鋼
SLD鋼はダイス鋼(SKD11)と同じようなもので冷間金型用の合金工具鋼の一種です。ステンレス並のクロムが含まれています。かなりの硬さまで焼入れが可能で、焼入れ歪みも少なく汎用性が高く耐摩耗性にすぐれた鋼となります。
SLDは記号ではSKD11のようなものです(正確には炭素量とクロム量がSLDは完全に定められている)
- S(鉄)
- K(工具鋼)
- D(ダイス、金型)
- それら第11種
という意味のようです。
SLDの特徴をまとめると
- 炭素が多く含まれ、硬さと耐摩耗性に優れた素材
- 焼入れ性、耐摩耗性、耐熱性、耐食性、引張強度に優れたモリブデンが含まれる
- 高級刃物や包丁の刃の部分に使われることが多い
- もともと鉄さえ切断できる鋼で硬さ強度は説明不要
- サビには強くない
となります。これらSLDは包丁や板金鋏などに使われています。
ステンレス系鋼材の種類と特徴
鋼でも13%以上のクロムが含まれているものをステンレス鋼と呼びます。特徴的には
- 錆びにくい
- 研磨がしやすい
- 耐久性が高い
となっており手入れが簡単で切れ味がいい鋼材となります。
金物や工具でよく聞くものとしては
- ステンレス
- スウェーデン鋼
- モリブデン鋼
などが挙げられます。
ステンレスのSUS304とSUS430の違い
いくつも種類がある中でステンレスとしてよく金具で聞くものがSUS304とSUS430だと思います。簡単に特徴を上げると
- 304:強度・耐熱・錆びにくさにすぐれ磁石にくっつかない
- 430:強度・耐熱・サビやすさは若干304より劣るが安価で磁石にくっつく
となっています。304はニッケルが合金に使われておりそのような差がでてくるようです。
スウェーデン鋼とは
スウェーデン鋼とは有名な鉄鉱石の生産国であるスウェーデンの鉱石を使って作られる鋼です。不純物が少なく弾力がありサビに強いという特徴を持っています。包丁を中心に鏝や斧などでも使われているなどに使われている高品質な鋼です。
モリブデン鋼とは
モリブデンそのものは金属元素で鉄と同じものですが、モリブデン鋼と呼ばれるものはステンレスにモリブデンが含まれた合金であることが多いです。包丁や板金工具で使われることが多い素材です。
モリブデンを含むことで焼入れをよくし強度や粘り強さをあげてくれます。医療用のメスにも使われる素材で切れ味と丈夫さがアップします。ステンレスとの違いを聞かれることが多いですが、ステンレス鋼に含まれることもある素材でモリブデンを含むことでモリブデン鋼といいます。
またバナジウムも一緒に含まれることがありその場合はモリブデンバナジウム鋼といったり、そのままモリブデン鋼ともいます。
粉末ハイス鋼
ハイス鋼と呼ばれる金属を切削するために開発された非常に硬い金属合金で、粉末ハイス鋼はそれら素材を粉末状にし熱と圧力で焼き固め結晶化させることで細かい粒子の集合となり切れ味に優れた金属ができる。
特徴として強靭で耐摩耗性に優れ、疲労に強い靱性がある工具ができあがります。ただ炭素が多いため錆びやすいというデメリットもありますが、それでもステンレス系にもなるため通常の金属よりは錆びにくくなります。
工具などでよく聞く粉末ハイス鋼は
- ZDP189
- HAP40
などがあります。先程説明したSLDも素材的にステンレス鋼材で説明しましたが粉末ハイス鋼に当たるともいえます。
ZDP鋼とは
日立金属の鋼材であるZDP189はミクロ組成で驚異的な硬度・摩耗性・耐食性を実現した粉末鋼で切れ味、耐久力があり長持ちする素材です。
硬くて刃持ちがいいのですが、研ぐのが難しいというデメリットもあります。
HAPとは
HAPはかなり高いレベルでの高硬度・高摩耗性・高靱性があります。粘りがあることによって刃持ちがよくなり、多少無理な使い方をしても刃がかけるということはなかなかないため驚くほど長持ちします。
ただサビにはそこまで強くなく、錆びやすいという点がデメリットとなります。
HAP5R・HAP10・HAP40・HAP50・HAP72などがあり数字が上がるほど高硬度と高耐摩耗性があがり、数字が低くなると靭性が上がります。HAP72などは防弾チョッキを切る鋏にも使われているほどの切れ味です。
工具や金具によく使われるメッキ処理の種類と特徴
次に鉄を使った合金や鋼素材ではないのですが、工具や金物にかけられるメッキについてお話したいと思います。メッキは素材を錆や腐食などから守るために行われるものですが、こちらも素材と同じくらいどれがどれだかわからなくなりやすいものです。よく聞くものとしては
- ドブメッキ
- 亜鉛メッキ
- ユニクロメッキ
- クロムメッキ
- ニッケルメッキ
などです。これらの特徴などを簡単に説明していきたいと思いますが、まずはこの2つを覚えましょう。
- 電気メッキ
- 溶解メッキ
の2つです。大体の工具や金具に使われるメッキはこの2つのどちらかに属したメッキであることが多いです。それでは説明していきます。
電気めっきと溶解メッキとは
これからメッキのお話をしていくにあたってこの2つの違いを覚えておきましょう。
簡潔に言うと
- 電気メッキ:電気をつかって溶液中の金属イオンを素材の表面にくっつける
- 溶解メッキ:金属を溶かした中に物をいれて付着させる
となります。この2つを覚えてお話を進めていきます。
ドブメッキとは
ユニクロメッキとこのドブメッキは建築業界などでは一番聞くワードかもしれません。ドブメッキとは基本的には溶解亜鉛メッキを指すことが多く上で説明した溶解メッキの一種です。
溶解メッキに品物を付ける姿を表して「どぶ漬け」や「天ぷら漬け」ということもあり、溶解亜鉛メッキをドブメッキということが多くなりました。
このメッキ方法はメッキが剥がれにくく長時間耐食性が続きます。ただ電気メッキと比べて溶かした金属を付着させるため素材そのものの厚みがましてしまうというデメリットもあります。
亜鉛メッキとは
亜鉛メッキは上でも上げた溶解亜鉛メッキのことを指している場合もありますが、それ以外にも電気亜鉛メッキを指すこともあります。こちらは電気メッキの一種です。
こちらは電気によって素材に亜鉛を付着させます。サビを防ぐために亜鉛メッキを行いますが、電気亜鉛めっきの場合はさらに防錆力を高めるためにクロメート処理(クロムをさらにメッキの上につける処理)を行われます。
クロメート処理とは
クロメート処理は
- 光沢クロメート(ユニクロ)
- 3価クロメートクリア
- 有色クロメート
- 黒3価クロメート
- 黒色クロメート
の5タイプにわけられ、それぞれ外観が異なります。例えば光沢クロメート処理を施すと後ほど説明するユニクロメッキとなります。また有色クロメートは黄クロメートとも言われ、黄色がかった光沢のあるいかにも建築金具に使われそうな色の処理となります。
電気亜鉛メッキはそれを下地にユニクロメッキやクロムメッキをかけることが多く、それらの初段階の処理としてもよく使われます。
ユニクロメッキとは
こちらは電気亜鉛メッキにクロメート処理を施したものでうっすらと青みがかった銀色のもので「ユニクロ」と称されることもあります。
防錆力がアップするだけではなく電気亜鉛めっきの変色をふせぎ、さらに金属に光沢を持たせる効果もあります。
クロムメッキ
クロメート処理のことではありません。クロムメッキは実は2種類あって
- 装飾クロムメッキ
- 硬質クロムメッキ(ハードクロムメッキ)
にわけられます。装飾クロムメッキは薄くメッキ加工をかけることで光沢感が出るため見た目がきれいに見えるようにかけられる処理です。
硬質クロムメッキは厚めにメッキ処理をすることで、硬度と耐摩耗性、潤滑性が増し機械部品や金型などの工業製品にされることの多い処理です。
ニッケルメッキ
ニッケルメッキは特徴として耐食性、耐薬品性に優れていて硬さや柔軟性もでて変色しにくくなる効果があります。亜鉛メッキのようにクロムメッキなどの下地に処理されることもあるメッキ処理です。
大きく分けると
- 電解ニッケルメッキ
- 無電解ニッケルメッキ
に分けることができます。さらに細分化もできますが、工具・金具主体に見るとあまり必要でないためここでは語りません。
まとめ
とりあえず工具や金具に主に使われる金属素材やメッキ処理についてまとめました。完全に管理人個人のノート的な立ち位置でのまとめになるので素材そのものやメッキ処理そのものについて詳しく知りたい場合はそれぞれ調べていただけたらと思います。
今後工具やメッキ処理された金具を扱う上でさらに覚えたものなどがあれば書き足していきたいと考えています。
ここで紹介したメッキ処理や鋼が使われている資材・工具はこちらの記事です