家庭園芸でも農家でも作物に水やりは必ずします。ただ園芸での水やりと違って、農家はかなり広い畑などに水を撒かなくてはいけません。そんなときは基本的には人手を使わず灌水システムを組んで作物全体に水やりをします。
灌水は基本的には水を穴が空いたホース、つまり灌水チューブと言われるもので水をまいたり、スプリンクラーなどで範囲的に散水したりします。ただ実は作物や用途によって合っている灌水方法があります。今回は作物・用途別灌水方法についてお話します。
年間数多くの農業資材メーカーの方とお話する機会の多い管理人が、メーカーさんから聞いた話や自身が働く資材屋での情報を踏まえてお話します。
まず知っておこう灌水?潅水?散水?とは
最初に灌水とは何かを説明していきます。灌水・潅水・散水・水やりなどいろいろな似たような言葉がありこんがらがりやすいですよね。まずはこの記事で話している「灌水」を一言でいうと
作物に水を撒くこと
です。そして潅水、散水、水やりの違いを簡単に説明すると
- 潅水:灌水と字が違うだけで同じ意味
- 散水:作物関係なしに水を撒くということ
- 水やり:植物に水をあげること
となります。
灌水と潅水に関しては旧漢字との違いで全く同じ意味です。また水やりは灌水を簡単に言う表現方法ということです。灌水も潅水もかん水も農業関係の記事やメーカーさんでも言い方はバラバラで統一されていないのでどれを使っても問題ないでしょう。
ただ散水になってくると、もっと大きな範囲での意味で水を撒くことに使います。例えばもちろん作物も、雪解けのためでも、砂埃が立たないためにグラウンドに水を撒くのも、すべて散水です。
作物育成場別灌水チューブの選び方
灌水で水を撒くものといえば
- 灌水チューブ
- スプリンクラー
の2つとなります。
灌水チューブは簡単に言うと穴が空いたホースで、その穴から水が吹き出し、様々な水の吹き出し方があるため、作物や使う場所・用途によって使うものが変わってきます。まずは場所別で大きく分けると
- ハウス内用
- 露地畑用
- 果樹園用
の3タイプがあります。そして灌水方法を大きく分けると
- 噴霧式
- 水平散水式
- 点滴式
の3パターンがあります。どの場所にどの方式を使うかをまとめると
噴霧式 | 水平散水式 | 点滴式 | |
ビニールハウス | ◯ | ◯ | ◯ |
露地畑 | ◯ | △ | △ |
果樹園 | △ | ◯ | ◯ |
という感じになります。灌水方法について詳しくお話していきます。
外の畑やビニールハウスに適した噴霧式
噴霧式というのはミストサウナのように、範囲内に霧吹きのような感じで水を撒く方法です。水滴が霧状に広がるのでまんべんなく植物にも土にも優しく水分が広がりやすいです。地上からはもちろんハウスの上から、横から散水します。
噴霧式は
- 広範囲に水分を行き渡らせる
- 土が崩れにくい
- 優しく葉についたものを洗い流す
という特徴があります。
風に乗り水分が広がっていくため広範囲に散水したり、地上から吹き出すように小さく散水したりと作物によって使い分けます。水滴を飛ばすようなものなので畝などの土の形を崩しにくく、シャワーのように葉についた虫や病原菌を流し落とす効果も期待できます。ですのでビニールハウス内や外での畑(露地)によく使われている灌水方法となります。水を与えるだけではなく、夏の熱対策にも使われます。
水平散水方式の灌水とは
こちらは融雪ホースなどのようにホースの表面の穴から水が飛び出していくるイメージの散水方法です。ハウス内で均一に散水できるのが特徴となります。
- 株元に散水
- 畝全面に散水
- 果樹などに見られる頭上からの散水
のパターンがあり作物によって使い分けます。基本的に地面にホースを設置して作物の葉などに水をかけずに株元へ水を散水していきます。一度に大量の水をばらまけるというメリットがあります。マルチ下にも使われたり、果樹の頭上から雨のように水を撒くがこの方法で、一番一般的で思い浮かべる灌水方法です。ただハウス内の場合は多湿になりやすいので注意が必要です。
水平式にもほぼ噴霧にして飛ばすものもあり、水平と噴霧の間とも言えるものがあります。
点滴式の灌水とは
点滴法はその名の通り、一滴一滴がこぼれていくように水を撒く方法です。この方法は水を与えるだけではなく肥料も与えることが効果的にできる灌水方法で、一般的に点滴チューブと呼ばれるものを使います。この方法は
- 液肥を混ぜて与えられる
- 土に少しずつ浸透していく
- 水の節約になる
という特徴があります。どちらかというと作物に水を撒くというよりは土に水を染み込ませるというイメージで、最も注目されている灌水方法です。
土に少しずつ水を染み込ませるので、土の中の空気を水のバランスがよくなり、作物の根にも優しく効率よく水と液肥を吸収できます。その液肥も水とのバランスよく与えることができ、水を与えたい場所にピンポイントで撒けるため、水道代の節約にもなります。株の間隔に合わせてドリッパー間隔を選びましょう。
農作物別の選び方とは
次は作物別での灌水方法の選び方です。作物を大きく
- 稲
- 葉物野菜:ほうれん草・白菜・ブロッコリー・アスパラガス
- 根菜:大根・ニンジン
- 果樹
- 果菜:トマト・きゅうり・ナス・ピーマン・いちご・スイカ・メロン
- 花
に分けます。それを上で説明した灌水法を当てはめていくと次の表のようになります。
噴霧式 | 水平式 | 点滴式 | |
稲 | ◯ | ー | ー |
葉物野菜 | ◯ | ◯ | ◯ |
根菜 | ◯ | ◯ | ◯ |
果樹 | △ | ◯ | ◯ |
果菜 | ◯ | ◯ | ◯ |
花 | ◯ | △ | ◯ |
もちろん丸がついていないところにも使われることはありますが、大体はこの使い方となります。水稲は基本的に育苗でしか使わないため噴霧式のみ、葉物野菜では通常の葉物野菜(白菜・キャベツ・レタス・ブロッコーリー・アスパラガス)などと軟弱野菜(ほうれん草・忠僕野菜・水菜・ネギ)などの更に細かく2つに分けることもあります。軟弱野菜にはほぼ噴霧式の灌水チューブを選択します。
作物を選んだあとは、その作物に対してどう使うかの用途別での使い方の方へ進みましょう。
用途別で選ぶ灌水チューブ
次は作物に対してどの用途で使っていくかを選んでいきます。大きく分けて
- 育苗用に
- 葉や茎など全体にまんべんなく
- 株元・マルチ下に
- 植え替え後に根付かせる活着用
- 果樹棚用
になります。これを3つの灌水法に結びつけると
噴霧式 | 水平式 | 点滴式 | |
育苗用 | ◯ | ||
まんべんなく灌水 | ◯ | ||
株元・マルチ下 | ◯ | ◯ | |
定植後の活着に | ◯ | ||
果樹棚用 | ◯ | ◯ |
このようになります。
育苗用としては主に水稲や花に使われ、優しく霧雨のような噴霧式で灌水します。ハウスのサイドや中に灌水チューブを設置します。住化農業のスミサンスイではミストエース20ポット育苗やスミサンスイR育苗というわかりやすいものもあり、他にもスミサンスイM、ミストエースSシリーズが使われます。また夏で作物に涼をあたえる暑さ対策でも育苗向けの灌水チューブが使われることが多いです。
またハウス内や露地で全体的にまんべんなく噴霧する場合も噴霧式が使われ、広範囲に撒くことができるスミサンスイR露地ワイド、スミサンスイRハウスワイドやハウス内の両サイドからミストエースS72/S54などが使われます。
また株元やマルチしたなどポイントがある程度絞れている場合の灌水は水平式や点滴式がよく使われます。スミサンスイNEWマルチシリーズやスミチューブシリーズ、点滴式でストリームラインシリーズが使われます。
定植後の活着にはやはり優しく灌水をするため噴霧式が基本です。育苗用とほぼ同じくスミサンスイM、ミストエースS72,S54などが使われます。
果樹には液肥を混入することも多いため、水平式・点滴式などがよく使われます。樹下・樹間には地上からは高さを抑えて横跳びが良くするスミサンスイR露地横跳び、なしでよく使われる頭上から専用ハンガーで垂らしてつかうミストエース20果樹などがあります。傾斜地では流れにくく直にアプローチしやすいユニラムシリーズなど点滴式が選ばれやすいです。
まとめ
本日は灌水に使う灌水チューブの選び方の基本をお話しました。更に細かく分けるとかなり枝分かれしてしまいますが、大まかに覚えておくにはこれくらいで十分です。灌水チューブは
- まず灌水する場所
- 次に使う作物
- そして用途
の3つを絞って選んでいきましょう。
灌水資材を扱っているメーカーさんは住化農業資材さん、サンホープさん、イリテックプラスさんなど数多くあります。サンホープさんやイリテックプラスさんもイスラエルなどからも輸入をしており、かなりのアイテム数がありますが、今回はわかりやすいように住化農業資材さんの商品を例えとして挙げさせていただきました。
灌水チューブを使う際には設置なども含めると数多くのアイテムを使いますが、その話はまた次回させていただきます。